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幽霊屋敷での夜明け

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夏の終わり、古びた民家の前で、カメラを構える一人の若者がいた。彼の名は拓真、自称「心霊スポット探訪家」であり、今夜の目的はこの地域で噂される幽霊屋敷の撮影動画を作ることだった。
拓真はカメラのレンズを通じて、その古民家の奥深くを覗き込んだ。窓はほとんど割れており、扉は半開きのまま軋む音を立てていた。彼は深呼吸を一つして、勇気を振り絞り、足を踏み入れた。
家の中は予想以上に冷たく、空気が静まり返っていた。しかし、拓真は怖がることなく、廊下を進み、各部屋を丹念に撮影していった。彼の目的はただ一つ、この家に棲むという幽霊の存在を証明することだった。
階段を上がり、二階へと向かうと、不意に足元からきしむ音が聞こえてきた。拓真は息をのみ、カメラのフラッシュを焚いた。しかし、そこに映し出されたのは、ただの古びた家具だけだった。
時間は深夜に差し掛かり、彼はようやく最後の部屋へと足を踏み入れた。部屋の中央には古い机が一つ、その上には埃をかぶった写真アルバムが置かれていた。拓真は好奇心に駆られ、アルバムを開いた。中には、この家で過ごした幸せそうな家族の写真がぎっしりと詰まっていた。
その瞬間、部屋の隅からぼんやりとした光が現れた。拓真は身を硬くしてその光を見つめた。光は徐々に形を変え、一人の女性の姿へと変わっていった。彼女は微笑みながら、拓真に近づいてきた。驚きと恐怖で声も出ない拓真に、彼女は静かに言った。「ありがとう、私たちの幸せな時を思い出させてくれて」。
その言葉を最後に、女性の姿は消えていった。拓真は深く息を吐き出し、周囲がすっかり明るくなっていることに気付いた。彼はカメラを握りしめ、家を後にした。
動画を編集する際、拓真はその不思議な出来事をすべて収録した。公開後、彼の動画は瞬く間に話題となり、多くの人々がその幽霊屋敷の物語に魅了された。しかし、拓真自身は、あの夜感じた家族の絆と愛の力を心の中で大切にし続けた。幽霊よりも、人間の温もりを伝えることが、彼にとって最も重要な発見だったのだ。